ポータージュ

無数の湖が点在するカナダ。
カナダのキャンプと言えば、カヌーもついてくる。
カナダ横断の旅をしたときも、
行程の中にカヌートリップが組まれていた。
通常は整備の行き届いたキャンプ場にテントを張って宿泊するのだが、
1泊だけはカヌーで湖を渡り
本当に何もない大自然の中でキャンプをした。
夜になると紛れもない漆黒の闇で、一歩先は何も見えない。
トイレはブルーシート1枚で隔てられただけのぼっとん便所。
数人で徒党を組みヘッドライトを頼りに
手探りでトイレへ向かったのを覚えている。

そんなところにずっと暮らすのはご免被るが、
1日くらいなら、新鮮な体験として大いに楽しめる。
都会から離れ、澄み切った空気の中で朝を迎えるのは気持ちがいいものだ。

もっと本格的なキャンプを求める強者には、
ポータージュというものがある。
キャンプをする目的地までカヌーと徒歩で移動するのだ。
キャンプする場所はもちろん手つかずの大自然の中。
そこにはトイレもない。
徒歩の部分は、もちろん自分でカヌーを担ぐことになる。
自分の荷物、食料を背負いオールを抱え、
カヌーをひっくり返して頭にかぶるように乗せて運ぶ。
陸地を通り抜け、再び湖に出るとまたカヌーに乗り込む。
これを繰り返し自分の目的地を目指す。

私はこれをアルゴンキン州立公園で体験した。
たった1泊だったが、なかなかどうしてハードな旅だった。
ずいぶん前のことで記憶が曖昧なのだが、
確か、入り口で入場料を払い自分たちの旅程を申請する。
カヌーとライフジャケットをレンタルし、地図をもらっていざ出発。
湖に島のように点在している陸地でキャンプを張ることになるのだが、
1つの島にキャンプできる人数 (テントの数?)が決まっている。
やっと陸地にたどり着き、
もう疲れたからここでテントを張りたいと思っても、
先客がいれば別の場所へ行かなければならない。

キャンプ慣れした友人に連れていってもらったのだが、
地図を読めなかったら完全に迷子だ。
湖もバカでかいので、自分が本当にちっぽけに感じる。
私は金づちではないが、水とは決して仲のいい友達ではないので、
湖の真ん中にいると恐怖すら覚えた。
そしてその恐怖を煽るかのように、突風がカヌーの横っ面に吹き付け、
私たちはなすすべもなく転覆した。
バックパックのポケットに無造作に入れていた
プリペード式の携帯電話が湖の底へ落ちていく瞬間が
スローモーションで脳裏に焼き付いている。

岸に近いところでの転覆だったので、
パニックにならずに済んだが、
あれが水深がどれだけあるかも分からぬ、
湖のど真ん中で起こっていたら…と思うと鳥肌が立つ。

うちの旦那は、中学生くらいの時に
サマーキャンプでこのポータージュを経験したらしい。
2週間弱の長丁場で、
食料は途中ヘリで投下されるというガチなキャンプだ。
旅を終えるころには体重が激減。
それが引き金になったのか、
ぽっちゃり体形から、やせ型体形に体質も変化し、
精神的な強さも備わったという。

カヌーと重い荷物を担いでのハイクは体力勝負。
(天気がいい日はカヌーから見渡す景色に癒される)
必要最小限の簡易な食事。
(外でとる食事は何でもおいしい)
そして訪れる真っ暗闇と静寂。
(月明りに出会えたら最高)

キャンプ好きな人は是非体験してみてほしい。
キャンプするところまでいかなくても、
カヌー体験だけでも広大な自然を十分に味わえる。
ただ、突風には要注意。
カヌーを風と平行に保つことが重要なカギだ。
(突風だから、これが難しかったんだけどね…)

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