感覚のズレ

旦那

料理をする気になれない時、私たちが向かう場所。
それは馴染みのパブだ。
特にパティオがある季節は、夕陽を眺めながら
まったりとした時間を過ごす癒しの場でもある。
お店の立地によっては
せっかくのパティオも魅力が薄れてしまうことがある。
うちの近所にある (数少ない) 飲食店の中で
ここがベストパティオなのは間違いない。
陽の光には、何ものをも輝かせてしまう魔力がある。

北西の角地に面したパティオで
私たちのお気に入りスポットは、
当然ながら最後まで日が当たる角っこにあるテーブルだ。
いつも大通りに向かって2人横並びで座る。

先日、旦那とそのテーブルで会話をしていると
突然鼻をつんざくアンモニア臭が漂ってきた。
しかし私たちの視界には何の異変もない。
話の途中だったが、私は思わず大きく体を捻り振り返った。
すると旦那も臭いに気づいたようで、同じように振り返る。
私たちの2列後ろのテーブルに
中年のカップルが座っていたのだが、
その2人の後ろに明らかに身なりの汚い男性が立っていた。
臭いの主だ。

何とこのカップルは、この浮浪者にせがまれるまま
タバコだか小銭だかを渡そうとしていた。
うちの旦那は、その浮浪者に向かって声を荒げた。
しかし、カップルはそうは受け取らない。
自分たちが責められていると感じ、
「たかがタバコだろっ!」と反論してきた。
特に男性の方は、
うちの旦那とまったく同じタイプの性格とお見受けした。
今にもケンカが勃発しそうな雲行きに。
必至に旦那を押さえる私同様、
相手の女性も彼を懸命になだめる。

私は彼のこういうリアクションが大大大嫌いだ。
そして私たちのケンカの元になる。
私には、彼の行動は明らかに
カップルをも非難しているように映った。
カップルの男性の
「俺たちのせっかくのディナーが台無しじゃねーか!」と
怒鳴り返してきた態度にも、それは如実に現れている。
(このあと彼女になだめられ静かになった)
ところが旦那の言い分は、
「カップルに怒ったのではなく、俺は浮浪者に怒鳴っただけだ。
彼らもそんなこと十分わかってる」
「カップルを非難したと思っているのは君だけだ」となる。
そう、いつも私の被害妄想だと言い張るのだ。

どうしたらこんな解釈に行き着くのか、
私にはまったくもって理解できない。
どこまでも世界を自分中心に回している。
この宇宙級の勘違い、どうにかならないものか…

20分後ぐらいだろうか?
女性が私たちのテーブルに歩みよってきて、
どうしてあのようなリアクションになったかを尋ねてきた。
とても理性的な女性で、うちの旦那の行動を責めることなく、
「ただ知りたいの」と。
旦那の説明で状況を飲み込んだ彼女は、
「なるほど、わかったわ」
「それじゃ、マイケルにもハローって言ってあげて」と
仲直りの機会を自然と作り出してくれた。

そのマイケルという人も、時間がたって冷静さを取り戻し、
笑って状況を振り返る余裕ができていた。
そこで互いに笑い合い、緊張感のある空気が一気にほぐれた。
(私だけが感じていた空気だが…)
私は、うちの旦那が相手に不快な思いをさせたことに
申し訳なさを感じつつもどうしていいか分からないでいた。
しかし、この知的な女性の穏やかな歩みよりにより、
誤解がとけ、後ろめたさを残さずに店を後にすることができた。
マイケルも恐らく、彼女の橋渡しがなければ、
「ムカつく野郎だった」という印象をぬぐえないままだっただろう。
私もこんな女性ひとになりたい。

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